DX後の接客担う
顧客分析ソフトウエアを提供するプレイドが17⽇、東証マザーズに上場、18⽇に初値をつけた。同社はネットを閲覧する顧客のトラッキングデータを取得し、リアルタイムで分析する技術をいち早く実⽤化した。現在約700のウェブサイトとアプリで活⽤されている。コロナ禍を機に多くの企業で顧客との接点がリアルからオンラインに切り替わっている。顧客とのコミュニケーションをデジタルトランスフォーメーション(DX)する存在として市場からの期待は⼤きい。
18⽇、上場2⽇⽬にして初値がつき終値は3670円だった。公募・売り出し価格の約2倍に達し、時価総額は約1400億円と市場を沸かせた。
プレイドが企業向けにSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)形式で提供する「カルテ」は、ネット上の顧客の⾏動を分析する。企業はポップアップ機能を使ったクーポン配布や類似商品の提案など売り上げにつなげるためのアクションを簡単に起こせる。アクションを起こすだけのマーケティングツールは多くあるが、リアルタイムで⾏動分析できるのがカルテの最⼤の強みだ。例えば顧客がサービスの申し込みフォームを開いたものの、ある項⽬で⼊⼒がとまり数分間動きがないケース。すると、⼊⼒⽅法がわからず困っていると推定し問い合わせ⽤のチャットをポップアップで表⽰する。
オンラインの世界で「顧客の⾒える化」は購買履歴や属性データの分析にとどまり、今この瞬間のリアルタイム分析はできていなかった。リアルな⼩売り現場に置き換えると、これまでは店のドアをあけて⼊ってきた客が⼥性だと確認するやいなや「このスカートいかがですか」と話しかけているような状態だった。プレイドは顧客がスカートを⼿に取りまじまじとみているときに、「このスカート⼈気なんですよ」と話しかけるようなオンライン接客を⽬指している。
リアルタイム分析を評価する顧客企業は多く、化粧品⼤⼿のコーセーやみずほ銀⾏など幅広い業界で採⽤されている。カルテを利⽤するウェブサイトやアプリの数は21年9⽉期には前期⽐12%増の794を⾒込む。
順調に事業を拡⼤する同社だが、ソフトウエアの提供を始めた約5年前は苦労した。リアルタイム分析まで必要とする企業は少なく、「ハイスペック過ぎる」と振り向いてもらえないことが多かった。だが、倉橋健太CEO(最⾼経営責任者)は「リアルタイム分析が将来は当たり前になるはず」とブレずに事業を続けた。考えに考え抜いた⾃信作だったからだ。
開発の2年間のうち、議論には膨⼤な時間を費やした。プロダクト責任者を務める柴⼭直樹取締役と⼆⼈で毎⽇午前8時から深夜0時ごろまで意⾒を戦わせた。プレイドの使命や「世界をどう変えていきたいか」というビジョンも徹底的に話し合ったという。
⾏き着いたのが、ウェブサイトは集客装置ではなく「顧客との関係性を育む場」という独⾃のインターネット哲学だ。その哲学に共感する従業員や顧客は少しずつ増え経営の⻭⾞は回り始めた。2019年には⽶グーグルからも出資を受け、ついに上場を果たした。
現時点でプレイドはマーケティングツールの提供にとどまっているが、ほかの領域での潜在需要は⼤きい。例えば従業員の⾏動データを分析して、困りごとを解決するという使い⽅も可能だろう。「まだ⾃分たちが理想とする状態の0.02%ぐらい」と倉橋CEOはどこまでも貪欲だ。上場後、DXをけん引する同社の第2ステージが始まる。(⾹⽉夏⼦)