≪後日検証シリーズ≫【コラム】ノーベル賞受賞者、トランプ政策を公然と批判-エドワーズ

 一般の国民がハリス氏とトランプ氏を比較する上で、過去8年の自身の経済体験についてうまく総括するのは難しいかもしれないが、あらゆる分野のプロのエコノミストにとってはほとんど迷うことはない。五分五分ではない。トランプ氏のアジェンダは、エコノミストにとって批判すべき点が多い。これらの政策のどれか1つだけでも、大統領候補として失格だが、トランプ氏がこれら全てを提案していることは、同氏が返り咲いた場合、経済がどれほどのリスクにさらされるかを示す十分明確な指標だ。

米連邦準備制度理事会(FRB)への干渉:トランプ氏と副大統領候補のバンス上院議員は、FRBの独立性を廃止し、金利設定などの金融政策について大統領に発言権を与えることを提案している。中央銀行の独立性は、安定した経済の基礎となる要素だ。中銀の独立性が高ければ高いほど、インフレ率が低下するという明確な因果関係が研究で明らかになっている。米国だけをみても、大統領からの政治的圧力は物価を上昇させている。

統計機関への干渉:トランプ政権は2020年の国勢調査に介入し、集計を早期に終了させ、国勢調査局の官僚に調査方法を変更するよう圧力をかけた。情報公開法に基づく請求によって明らかになった電子メールによれば、公務員として保護されているこれらの労働者は抵抗した。しかし、トランプ大統領は政権末期に試みた公務員制度改革「スケジュールF」を通じて、多くの公務員を政治任用者に置き換えることを提案しており、共和党はすでに労働統計局を攻撃している。信頼できる経済データの発表が危ぶまれる事態だ。

過大な関税:トランプ氏は全世界からの輸入品全てに20%の関税をかけることを提唱しているが、中国からの輸入品とメキシコからの自動車にはより高い税率を求めている。トランプ政権時代の関税は絶好の実験場だ。関税を支払うのは商品を輸入している国内企業であり、そのコストを消費者に転嫁しようとするため、関税は物価を上昇させるというのがエコノミストの一致した見解だ。その結果、関税は国内総生産(GDP)成長率を低下させることが証明されている。関税の規模が大きく、対象範囲が広ければ広いほど、米消費者物価は高くなる。歴史と1930年のスムート・ホーリー関税法は、もう1つの教訓を提供する。最も可能性の高い高関税の結末とは、貿易相手国による米国の輸出業者への報復だ。

大量強制送還:トランプ氏は米国史上最大規模の強制送還を公約し、共和党員はこの夏の全国大会で「今こそ大量強制送還だ!」と書かれたプラカードを掲げてトランプ氏に応じた。中道左派のブルッキングス研究所の研究者は、予想以上の移民受け入れが経済に恩恵をもたらし、消費者の需要と雇用の伸びを支えてきたと分析。さらに強制送還を実行すれば、移民が雇用されている保育や建設などの重要産業に影響を与え、総需要を低下させ、米国生まれの労働者に打撃が及ぶと指摘している。

財政赤字の拡大:連邦政府は1兆ドル(約152兆円)規模の赤字を抱えており、超党派で非営利の「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」は、トランプ氏の政策提案はハリス氏の2倍の費用がかかると判断した。ハリス氏の提案はトランプ氏よりも新規支出を抑え、支出を賄うための税収増を望んでいるが、トランプ氏はそれを望んでいない。社会保障制度も財政健全化へのさらなる圧力となる。信託基金の形を取っている社会保障制度は直接的に財政赤字を増やすものではないが、議会はこの制度に数兆ドルの債務を負っている。CRFBはトランプ氏の社会保障制度案について、不足額をさらに2兆ドル膨らませ、この信託基金を現在予測されている2035年より3年早く枯渇させるだろうとしている。

 ノーベル賞受賞者たちは書簡の中で、法の支配に加え、経済的および政治的な確実性がいかに重要かを指摘。これは「経済的成功を遂げるための重要な決定要因の1つだ」と強調した。敵への報復計画を公然と話すトランプ氏の逆鱗に触れたくない企業幹部の多くが同氏にすり寄っているという事実は、高尚なエコノミストの主張を証明している。

【コラム】ノーベル賞受賞者、トランプ政策を公然と批判-エドワーズ – Bloomberg

2024年11月7日 | カテゴリー : 後日検証 | 投稿者 : 曲がり屋