ヤマダ電機とビックカメラ、“経営がうまい”のはどちらか

 家電量販店業界で売上高1位のヤマダ電機と2位のビックカメラ。この両社は同じ家電量販店というカテゴリーにくくられるが、立地戦略と多角化戦略において大きな違いがある。そして、それが近年注目されている「経営のうまさ」を示す指標に大きな差を生んでいる。なぜ、明暗が分かれたのだろうか。

●ヤマダ電機とビックカメラの出店戦略
 ヤマダ電機の前身である「ヤマダ電化サービス」が創業したのは1973年。いわゆる「町の電気屋さん」だった。創業者の山田昇氏は祖業の地である群馬県を皮切りに新規出店を繰り返し、2005年に売上高は1兆円を超えた。
 同社の急成長を支えたのは圧倒的な規模の追求だ。店舗数を背景にメーカーから大量に仕入れることで、安価に商品を提供できる。ヤマダ電機の国内直営店舗数は傘下のベスト電器などと合わせると935店だ(17年3月末時点)。
 出店場所はいわゆる郊外が多い。近年、都市型駅前店の「LABI」も展開しているが、店舗数は全体からみるとわずかだ。
 一方のビックカメラは1978年、池袋駅北口にカメラと関連商品の販売会社として創業した。前身は創業者の新井隆司氏(本名:新井隆二)が群馬県高崎市に設立した株式会社高崎DPセンターである。大都市の駅前に集中的に出店する戦略で成長してきた。ビックカメラの直営店は40店舗あるが、そのうちの8割近くが大都市圏(首都圏、愛知県、大阪府、福岡県)にある。近年は、郊外店舗が中心だったコジマを傘下に収めるなど、出店エリアを拡大している。
 楽天証券経済研究所長の窪田真之氏は「インバウンド需要の恩恵を十分に受けられるのは都市型のビックカメラだ」と指摘する。
 日本政府観光局によると、訪日外国人観光客数は17年に約2870万人と過去最高を更新。訪日外国人観光客による「爆買い」は落ち着いたといわれるが、家電量販店や百貨店にとっては存在感の大きい顧客になったことに変わりはない。
 ビックカメラがインバウンド需要の恩恵を受けている一方で、ヤマダ電機は近年、不採算店舗の整理を進めている。15年のプレスリリースで構造改革の一環として「スクラップ&ビルドや業態店舗を含め46店舗の閉鎖を予定している」「今後は都市部と郊外で厳選して出店していく」と発表したことは、規模を追う戦略からの脱却を印象付けた。

●住宅関連事業を強化するヤマダ電機の多角化戦略
 ヤマダ電機とビックカメラは多角化戦略も大きく異なる。
 ヤマダ電機の多角化戦略を象徴するのが、11年10月に実施された注文住宅のエス・バイ・エルの子会社化だ(現在は社名をヤマダ・エスバイエルホームに変更)。家電製品や太陽光発電システムなどを住宅と組み合わせて販売する狙いがあった。
 窪田氏はこの戦略に疑問を呈する。
 「家電と住宅を売るノウハウは異なる。エス・バイ・エルは子会社化された当時、業績不振に苦しんでいた。エス・バイ・エルの立て直しは非常に難しいだろう」
 ヤマダ・エスバイエルホームは18年2月期の連結決算で最終損益が27億円の赤字だった。17年2月期の最終損益も2億9000万円の赤字だったため、厳しい経営環境に置かれている。
 ヤマダ電機はエス・バイ・エルの買収後も、住宅設備機器のハウステックホールディングスを買収してリフォーム分野にも進出した。ヤマダ電機の店舗内にショールームを設けるなど、住宅関連事業と家電の相乗効果を狙っている。さらに、近年では家電、家具、リフォームなどを扱う新業態店「インテリアリフォームYAMADA」をオープンさせた。この新業態店は4月時点で20店舗強にまで増えている。
 ヤマダ電機の山田昇会長はBusiness Journalの取材に対し「投資家のみなさんからすれば『よけいなことをやっている』という感じでしょうが」と外部の批判を意識したうえで、新業態店について「『住まいに関する家1軒まるごとのサービス』を具現化した店舗であり、ヤマダ電機がビジネスを強化するという姿勢の象徴的な店舗です」と強調している(関連記事:「ニトリのモノマネではない」…ヤマダ電機会長、「住まいに関する家1軒まるごとのサービス」を語る)。

●日用品や雑貨を強化するビックカメラの多角化戦略
 一方のビックカメラは、約10年前から雑貨や日用品と家電を組み合わせて販売する多角化戦略を展開している。例えば、アルコールを扱う「ビック酒販」や医薬品を扱う「ビックドラック」といった独立した部署をつくり、専門知識を持った店員を育成している。さらに、17年11月には化粧品やキーホルダーといった家電以外の品ぞろえを充実させた新業態店「ビックカメラセレクト原宿店」をオープンするなど、その動きを加速させている。
 ビックカメラの戦略を窪田氏はこう評する。
 「スーパーやドラッグストアを想像すれば分かるが、日用品を扱う店舗は来店頻度が高くなる。家電などの耐久消費財と日用品を同じ店舗で売ることで相乗効果が見込める」
 窪田氏によると、小売店にとっては来店頻度を高めることが売り上げアップの近道だ。スーパーマーケットの隣に出店したいと考える小売店が多いのはそのためだという。
 窪田氏の指摘を踏まえるならば、ヤマダ電機の多角化戦略は来店頻度を高める方向には作用しにくい。住宅展示施設やリフォーム関連のショールームは家電量販店よりも来店頻度が低いからだ。

●「経営がうまい」のはどっち?
 ヤマダ電機が大量出店した反動で不採算店舗の閉鎖に追われたり、買収した住宅関連企業の立て直しに追われたりしているのとは対照的に、ビックカメラはより少ない投資で高い成果を上げていることが分かる。
 その結果はROE(自己資本利益率)という指標に出ている。これは、簡単に言うと株主の投資資金を用いてどれだけ効率的に稼いでいるかを示す指標だ。近年、投資家から注目されていて、「経営のうまさ」とも表現できるだろう。1つの目安として8%以上が望ましいとされる。ヤマダ電機のROEは6.3%(17年3月期)、ビックカメラは11.74%(17年8月期)と差は歴然だ。
 窪田氏はさらに両社のROEに今後、大きな差が出ると予想する。日本電機工業会の発表によると「白物家電」の国内出荷額は03年から緩やかに増加を続けている。これはインバウンド需要や、高付加価値の家電が堅調に売れていることなどが背景にある。白物家電が好調という追い風を受けているのに、両社のROEには大きな差がある。「19年10月の消費税増税後、住宅と家電は激しく需要が落ち込むことが予想される。ビックカメラは日用品や雑貨で落ち込みをカバーできるが、ヤマダ電機は住宅の需要減の影響を強く受けるだろう」(窪田氏)。

 ヤマダ電機は消費税増税までに住宅関連事業を強化できるだろうか。多角化戦略の真価が問われている。

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